学生時代に年金の猶予を受け、その後対応しないまま時が過ぎている方も多いのではないでしょうか。
日本の年金制度には、猶予された年金を後から納められる「追納」というシステムがあります。将来受け取る年金額を増やしたい方は、20代のうちに追納を済ませておくことがおすすめです。
この記事では、国民年金の学生納付特例で猶予された年金を追納するメリットやデメリット、追納する方法について分かりやすく解説します。
追納の期限を越えた30歳以上の方向けに、年金を増やす方法も紹介するため、将来の受取額を増やす方法を知りたい方はぜひ参考にしてください。
学生時代に猶予された年金は追納すべき?

学生時代に猶予された年金の追納は、「将来受け取る年金額を増やしたい・満額に近づけたい」という方におすすめです。
日本の年金制度では、20歳になったら国民年金に必ず加入することになっているため、毎月保険料を納める義務が発生します。しかしながら、20歳という年齢は学生である方も多く、毎月まとまった収入を得られる方は少ないでしょう。そのため、20歳以降の学生の国民年金保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」という仕組みがあります。
大学や専門学校を卒業し社会人になってから、追納で猶予されていた国民年金保険料を支払うことが可能です。
学生時代に猶予された国民年金を追納すると、将来受け取る老齢基礎年金の受給額を満額に近づけられます。裏を返せば、学生時代に猶予された国民年金を追納しない場合は、老齢基礎年金を満額受給できないのです。
国民年金の追納とは
国民年金の追納とは、学生納付特例制度を利用したり、保険料の免除や猶予を受けたりした場合に、後から保険料を納めることです。
国民年金の追納は義務ではありません。また、どこまでもさかのぼって追納できるわけではなく、追納できるのは10年以内と定められています。
すなわち、令和5(2023)年度に追納できるのは、平成25(2013)年度以降に学生納付特例制度を受けた方、すなわち今年度で30歳になる方までしか追納はできません。
30歳を超えた方は、年金の追納はできませんが、将来の年金受給額を増やす方法はあります。後述する「30歳以上の方必見!年金を増やす5つの方法」をご覧ください。
学生納付特例制度とは
国民年金の学生納付特例制度とは、20歳以降の人が学生である期間、保険料の支払いが猶予される制度です。学生納付特例制度の対象者は、所得が一定以下の学生であり、家族の所得は問われないため、利用した方も多いのではないでしょうか。
学生納付特例制度を利用するメリットは、主に以下の3つです。
- 保険料を支払わなくて済む
- 老齢基礎年金を受け取りやすくなる
- 障害基礎年金・遺族基礎年金を受け取る対象になりやすい
学生納付特例を受けていた期間は、保険料を支払っていないため年金額には反映されませんが、各種年金の受給資格期間とカウントされる点がメリットです。
老齢基礎年金は、保険料の納付済期間と免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に、65歳から受け取れます。学生納付特例制度で支払いを猶予された期間は、老齢基礎年金の受給資格期間に算入されるため、老齢基礎年金を受け取りやすくなります。
また、障害基礎年金や遺族基礎年金においては、学生納付特例制度で支払いを猶予された期間は、保険料納付済期間と同様に受給要件の対象期間になるため、万が一の場合に備えることも可能です。
自身が学生納付特例制度を利用した期間については、ねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。
学生時代の年金を追納するメリット

学生納付特例制度で猶予された国民年金を追納するメリットは、主に以下の2点です。
- 受給額を満額に近づけられる
- 社会保険料控除を受けられる
それぞれ詳しく解説します。
受給額を満額に近づけられる
国民年金の保険料を猶予されていた期間がある場合、追納を行わないと、将来満額の年金を受給できません。
追納によって受け取れる年金額が増え、さらに増えた分は生涯にわたって受け取れるため、長生きするほどメリットが大きくなります。
ここで、追納した場合としなかった場合を比較してみましょう。
- 8月生まれで20歳になった8月から大学を卒業した22歳の3月までの32か月間、学生納付特例を受け、以降は満額納付したAさん
- 20歳から60歳まで満額納付したBさん

令和5年度の老齢基礎年金の満額は、795,000円です。老齢基礎年金の受給額は、以下の式で計算されます。
年間受給額=795,000円(令和5年度の場合)×保険料納付月数÷480か月
令和5年度の受取額でAさんとBさんの受取額をシミュレーションすると、以下のようになります。
Aさん:795,000×(480-32)÷480=742,000円/年
Bさん:795,000×480÷480=795,000円/年
AさんとBさんでは、受給額に年間53,000円もの差が生まれました。65歳から85歳までの20年間年金を受け取ると仮定すると、生涯で106万円の差が出ます。
追納する額は、当時の保険料や学生納付特例を受けた期間によって変わりますが、Aさんの場合、月額約15,000円を32か月分とすると約48万円です。
受給額の差:約53,000円/年
追納額:約48万円-社会保険料控除約89,400円=390,600円
→390,600÷53,000=7.36…
→損益分岐点は7.3年
すなわち、7.3年以上年金を受け取れば、追納した金額より受け取る年金のほうが多くなり、得になるといえるでしょう。
国民年金の支払いは義務であるため、損得の話ではないかもしれません。しかし、人生100年時代、長期的に見れば、学生納付特例で猶予された年金の追納は悪くない投資先であるといえます。
社会保険料控除を受けられる
国民年金を追納すると、保険料の全額が社会保険料控除の対象となり、所得税と住民税が軽減できる点もメリットのひとつです。
年収が400万円、給与所得が276万円の場合、1年で48万円追納したとすると、所得税と住民税が最大で約89,400円節税できます。
→社会保険料控除48万円(それ以外の控除は基礎控除以外なし)
→所得税▲41,400円、住民税▲48,000円
税負担が軽減された分、少ない費用で追納できたことになります。また、追納による社会保険料控除は、本人でなく親が払った場合も受けられます。
社会保険料控除は会社員の方は年末調整、自営業の方は確定申告で手続きしましょう。
学生時代の年金を追納するデメリット
学生納付特例で猶予された年金を追納するデメリットは、収入が少ない場合は経済的負担が大きいことです。
大学を卒業し30歳になるまでは、ライフイベントに資金が必要になったり、奨学金の返済に充てたりして、経済状況に余裕がある方は多くないでしょう。年金の追納は義務ではありませんので、追納が大きな負担になる場合は、追納でなく後述する年金を増やす方法をとるのも一つの方法です。
学生時代の年金を追納する方法

年金を追納するには、年金事務所へ申請する必要があります。
手順は以下のとおりです。
- 年金事務所に「国民年金保険料追納申込書」を提出する
- 納付書が送られてくる
- 納付書を使って納付する
年金事務所に行き申込書を記入し提出する他に、日本年金機構のホームページから申請用紙をダウンロード・印刷し、記入して年金事務所へ郵送しての提出も可能です。
国民年金の追納は、口座振替やクレジットカードでは行えません。納付書を使って金融機関や郵便局、コンビニで納付しましょう。
追納申込書には、追納したい期間と、支払方法(一括払い、1か月/2か月/3か月/4か月/6か月の分割払いの6通り)を記入する欄があります。支払える額を考慮して、分割区分を選んでください。
また、国民年金の追納は、猶予を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降、つまり2年以上経ってから行うと加算額が上乗せされます。
例:令和5年度中に追納する際の追納保険料額
引用:国民年金保険料の追納制度|日本年金機構
全額免除の追納保険料 当時の保険料 差額(加算額) 平成25年度 15,220円 15,040円 180円 平成26年度 15,370円 15,250円 120円 平成27年度 15,700円 15,590円 110円 平成28年度 16,360円 16,260円 100円 平成29年度 16,570円 16,490円 80円 平成30年度 16,410円 16,340円 70円 令和元年度 16,460円 16,410円 50円 令和2年度 16,570円 16,540円 30円 令和3年度 16,610円 16,610円 なし 令和4年度 16,590円 16,590円 なし
大学を卒業して丸2年経つと、加算額を支払う必要が出てきます。社会人2年目のうちに追納を済ませておくのが最もお得といえますが、追納に回せる余裕が少ない場合も多いでしょう。
そこまで早く追納できなくても、時間が経てば経つほど加算額は増加するため、追納は早めに済ませておくのがお得です。
【30歳以上の方必見】年金を増やす5つの方法

国民年金の追納の目的は、将来の受給額を満額に近づけることです。そのため、学生納付特例を利用してから10年以上過ぎ、追納できなくなってからでも年金を増やす方法の選択肢はいくつもあるので安心してください。
年金を増やす方法の主なものは、以下の5つです。
- iDeCo
- 国民年金基金
- 付加年金
- 任意加入制度
- 繰り下げ受給
一つずつ紹介します。
iDeCo
iDeCoは個人型確定拠出年金といい、自分で出した掛金を自ら運用しながら積み立て、原則60歳以降に受け取る私的年金制度です。国民年金の被保険者は原則誰でも加入できます。
iDeCoのポイントは以下の通りです。
- 掛金を全額所得控除でき、節税になる
- 運用益に課税されない
- 受取時も所得控除できる
自分で金融商品を選ぶ点で国民年金や厚生年金と異なり、金融商品によってリスクは異なります。
元本割れを防ぎたい方は、基本的には元本割れしない「元本確保型」と呼ばれる定期預金や保険商品を選ぶとよいでしょう。大きく運用益が出ることはありませんが、所得控除で税制優遇を受けられます。
国民年金基金
国民年金基金は、自営業やフリーランスなどの国民年金の第一号被保険者の年金を2階建てにする個人年金制度です。
会社員の年金は国民年金と厚生年金の2階建てですが、自営業やフリーランスの方は1階部分の国民年金しかないため、会社員の厚生年金にあたる部分を補う制度が国民年金基金です。
国民年金基金のポイントは以下の通りです。
- 掛金を全額所得控除でき、節税になる
- 受取時も所得控除できる
65歳から生涯受け取れる終身年金が基本ですので、自営業やフリーランスの方の老後への備えになります。
付加年金
付加年金とは、国民年金に付加保険料(月額400円)をプラスして納付すると、老齢基礎年金に付加年金が上乗せされる制度です。対象は自営業やフリーランスの第一号被保険者や、60歳以上の任意加入被保険者です。
毎月400円の付加保険料を納めると、受け取れる年金額が年間で「200円×付加保険料納付月数」増えます。
すなわち、2年以上年金を受給すれば、付加保険料の元が取れる計算です。少ない負担で将来の受取額を増やせますが、国民年金基金との併用ができない点は注意しましょう。
任意加入制度
任意加入制度とは、60歳以降でも国民年金に入り続けられる制度です。
納付済期間が40年(480か月)に満たない方が、受給額を満額に近づけるために利用できます。学生納付特例を受けていた期間の分、60歳を超えてから任意加入制度を利用し保険料を納めれば、受給額を増やせます。
繰り下げ受給
年金の繰り下げ受給とは、本来65歳以上の受給開始を1か月遅らせるごとに、受給額が0.7%ずつ増加する制度です。最大で75歳まで繰り下げられ、年金額が84%増加します。
増額した分は生涯変わらず受け取れるため、高齢になっても元気で収入がある方は繰り下げ受給も一つの方法です。
学生時代の年金を追納して将来の受取額を増やそう
学生納付特例制度を利用し国民年金の猶予を受けた場合、30歳になるまでなら後から保険料を納める「追納」を行えます。
追納により、将来の受取額を満額に近づけられます。増加した年金額は生涯受け取ることができるため、人生100年時代に向けて大きなメリットといえます。追納した保険料は、全額社会保険料控除の対象であるため、所得税や住民税を軽減することもできます。
30歳を超えた場合でも、追納ではない方法で年金額を増やせます。iDeCoや国民年金基金、付加年金などを活用し、将来のために備えましょう。
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