変形性膝関節症の新しい治療法「再生医療」とは?保存療法や手術と比較して解説

変形性膝関節症の新しい治療法「再生医療」とは?

変形性膝関節症と診断され、湿布やヒアルロン酸注射などの治療を受けているけれど、なかなか痛みが取れずに悩んでいませんか?

変形性膝関節症の治療の選択肢は、従来薬物療法や運動療法などの保存療法手術でしたが、近年「再生医療」という第3の治療法が登場し、注目を集めています。

この記事では変形性膝関節症の治療法、中でも再生医療について詳しく解説します。「手術を受けずに痛みを取って買い物や旅行を思う存分楽しみたい」「今すぐではないけれど再生医療に興味がある」という方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

変形性膝関節症とは

変形性膝関節症とは、膝関節内でクッションの役割を果たす軟骨に負荷がかかることですり減り、炎症が起き痛みが生じる疾患です。中高年女性に多くみられる疾患であり、発症には年齢や肥満、体質も関係していると考えられています。(*1)

症状が末期まで進行すると歩行が困難になったり、安静時でも痛みを感じたりする場合があり、QOLが低下する原因ともなる疾患です。

また、一度すり減ってしまった軟骨は元には戻らないため、症状が進行するに従って治療の選択肢が狭まります。そのため、膝に痛みを感じている方は早期に治療を始めることが重要です。

変形性膝関節症の症状

変形性膝関節症の主な症状は、膝の痛みと水が溜まることです。これらの症状は急に現れるものではなく、数年にわたって少しずつ進行していきます

ここでは、変形性膝関節症の症状を初期・中期・末期の3段階に分けてみていきましょう。

初期

変形性膝関節症の初期では、以下のような症状がみられます。

  • 立ち上がりに膝が痛む・こわばる
  • 歩き始めに膝が痛む・こわばる

初期では体を動かし始めたときに、膝のこわばりや鈍い痛みを感じます。この段階では、しばらく休んだり体を動かしたりしていれば痛みは自然に治まるため、あまり気にならない方もいるようです。

中期

軟骨のすり減りが進行すると膝関節の骨があらわになり、関節のふちからトゲのような突起物(骨棘)が出たり、骨が変形したりします。以下のような症状がある場合、変形性膝関節症の中期だといえるでしょう。

  • 階段の上り下りで膝が痛む
  • 膝の痛みで正座ができない
  • しばらく休んでも膝の痛みが消えない
  • 膝が腫れ熱っぽく感じる
  • O脚が進行する

中期まで進行すると関節内に分泌液が多く溜まり、膝に水が溜まった状態になります。また、O脚も進行し、見た目にも膝の変形が認められます。

末期

変形性膝関節症の末期症状は、軟骨が摩耗してほぼなくなり、骨同士が直接ぶつかることによる激しい痛みです。初期や中期でみられた症状が全て悪化し、歩く・座る・しゃがむなどの日常動作が困難になります

膝をまっすぐ伸ばせなくなったり、安静時でも痛みが取れなくなったりなど、日常生活に支障を来し、精神面での負担も大きくなるでしょう。

変形性膝関節症の原因

変形性膝関節症の原因として挙げられるのは、加齢による膝関節軟骨の老化です。50代以上の女性に多くみられるため、性別も発症に関係していると考えられています。その他にも肥満や体質、半月板損傷などの外傷も原因のひとつであるとみられています。

膝軟骨は本来、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の表面をなめらかに覆っており、弾力があるため膝の曲げ伸ばしの際にクッションの役割を果たすものです。

しかし、軟骨は加齢とともに老化し、弾力性を失い、さらに立ち仕事や激しいスポーツによる膝の使いすぎも軟骨の質の低下に影響します。質が低下した軟骨は次第にすり減り、変形性膝関節症を発症します

変形性膝関節症の治療法

変形性膝関節症の治療法は、体への負担が少ない保存療法根本的な治療である手術新しい治療法である再生医療の3種類です。どの治療法が選ばれるかは病状によって異なりますが、まずは保存療法が第一選択となるケースが多いです。保存療法で改善が望めない場合は、手術が検討されます。

昨今、自身の血液や脂肪から組織を修復したり痛みを緩和したりできる成分を抽出し、患部に注射する治療法である再生医療が注目されています。ここでは、保存療法・手術・再生医療の3つの治療法をそれぞれ詳しくみていきましょう。

保存療法

変形性膝関節症の保存療法とは、運動療法や薬物療法、装具療法など、手術以外の治療法のことを指します。

運動療法

変形性膝関節症の運動療法では、大腿四頭筋などの筋力トレーニングや有酸素運動、関節可動域を広げる訓練を行います。大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛えると、筋肉が体重の負荷を受け止めるため、膝関節への負担が軽くなり、軟骨のすり減りを食い止めるのに効果的です。

反対に、膝の痛みから運動を敬遠していると筋力の低下をまねき、膝がグラグラと安定しない状態になります。不安定な状態だと軟骨のすり減りがさらに進行し、痛みが悪化しやすくなるため、変形性膝関節症の治療において筋力トレーニングは非常に重要です。

おすすめのトレーニングのやり方は「自宅でできる筋力トレーニング」の章で紹介しているので、ぜひ実践してみてください。

薬物療法

変形性膝関節症の薬物療法は、内服薬や外用薬、注射薬などです。

内服薬と湿布や塗り薬などの外用薬は、痛みや炎症を抑える目的で用いられます。注射薬は炎症を抑えるステロイド剤や、関節のなめらかな動きを取り戻すためのヒアルロン酸が使われます。

その他の保存療法

運動療法や薬物療法の他に、サポーターやインソールを用いる装具療法や、患部に温熱や電気を当てる物理療法などが併用して行われる場合もあります。

手術

保存療法でも改善がみられない場合に検討されるのが手術です。変形性膝関節症の手術には、主に以下の3種類があります。

  • 関節鏡手術
  • 高位脛骨骨切り術
  • 人工関節置換術

それぞれ手術の目的や、適応される病状が異なります。

関節鏡手術

関節鏡手術とは、膝を小さく切開しカメラ(関節鏡)を挿入し、ギザギザになった軟骨や軟骨の破片を取り除く手術で、痛みの軽減が目的です。

傷が小さく入院が1~2泊で済む点はメリットですが、痛みの軽減効果が必ずしも長続きしない点、根本的な治療ではない点がデメリットといえます。

高位脛骨骨切り術

高位脛骨骨切り術は、すねの骨の一部を切り取ることで骨の角度を調整し、膝関節の内側と外側で均等に負荷がかかるようにする手術です。軟骨がある程度残っている初期から中期までの方や、50~60代と比較的早期に手術が必要になった方の選択肢として挙げられます。

人工関節置換術と異なり、自身の膝関節を温存できる点や、スポーツに復帰できる可能性がある点がメリットです。しかし、骨がつくまでの2か月ほど入院しながらリハビリを行う必要があるため、体力の衰えやすい高齢者には不向きと考えられています。

人工関節置換術

人工関節置換術は、痛みの原因である軟骨や骨の表面を取り除き、ステンレスやプラスチックなどでできた人工関節に置き換える手術です。病気が末期まで進行し、軟骨のみならず骨の変形も激しい場合に選択されます。

痛みは大幅に改善しますが、関節の可動域が狭くなる点、15~20年の耐用年数があり再手術が必要となる可能性がある点がデメリットといえます。最終的な治療であるため、比較的高齢(70歳以上)の方に適用されることが多い方法です。

再生医療

再生医療とは、病気やケガで失われた体の機能を取り戻すために、人の体の再生する力を利用して細胞や組織を再生し、症状の改善を目指す新しい治療法です。再生医療のうち、変形性膝関節症には、「PRP療法」「APS療法」「幹細胞治療」の3つが多く選択されます。

PRP療法

PRP療法とは、自身の血液からPRP(Platelet-Rich Plasma/多血小板血漿)を抽出し、血小板由来の成長因子による組織の修復や炎症を抑える働きを利用する治療法です。

人は転んで膝を擦りむいても、傷は次第にかさぶたになり自然に治ります。このような人の自然治癒力は、血液中の血小板の働きによるものです。

PRPは自身の血液を約20ml採取し、専用の装置を使って抽出します。血小板が高濃度に含まれるPRPを膝に注射すると、血小板の成長因子の働きで痛んだ組織の修復が促進されたり、炎症が抑制され痛みが軽減したりする効果が期待できます。

APS療法

APSは自己タンパク質溶液(Autologous Protein Solution)といい、PRPをさらに遠心分離し特殊加工を施して生成される成分です。次世代PRPとも呼ばれます。

APSはPRPより高濃度の成長因子と抗炎症成分を含むため、PRPと比較してより変形性膝関節症の炎症を抑え、痛みを緩和する効果が期待できます。

幹細胞治療

幹細胞とは自身のコピーを作る能力(自己複製機能)と、特定の細胞に変身する能力(多分化機能)を持っている細胞です。

幹細胞を膝に注入すると、幹細胞は自身の数を増やしながら、損傷した部位を再生しようと働きます。また、幹細胞は「サイトカイン」と呼ばれる物質を産出します。サイトカインは抗炎症作用や神経の再生を促進する効果があるとして研究が進められている物質です。(*2)

幹細胞治療ではお腹や太ももの脂肪を約10ml程度採取し、幹細胞のみを抽出します。約6週間かけて培養した幹細胞を、膝関節に注入するという流れです。

変形性膝関節症でもできる運動・してはいけない運動

「いずれ手術や再生医療をするかもしれないが、今のところまだ予定はない」という方に、自分でできる改善方法としておすすめなのが運動療法です。

変形性膝関節症の痛みから運動を避けてしまうと、体重が増加したり、筋力が衰えたりし、症状が悪化する可能性があります。とくに肥満の方は膝にかかる負担が大きく、軟骨のすり減りが進む傾向が強いです。

人の動作によって、膝には以下のように大きな負担がかかっています。

歩くとき体重の約2~4倍
階段の上り下り体重の約4~7倍
走るとき・ジャンプ体重の約10倍以上
(*3)

体重コントロールに重要なのが、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動です。ここでは、変形性膝関節症の方でも取り組める運動を紹介します。

ただし、症状が悪化しないように、いきなり激しい運動は避ける、運動前後にストレッチを取り入れる、主治医と相談の上様子を見ながら行うなどの点に注意してください。

有酸素運動

変形性膝関節症の方におすすめの有酸素運動は、ウォーキングやエアロバイクです。

ウォーキングは歩く前後にストレッチをし、膝への負担を軽くするようになるべく平地で行いましょう。また、プールの中を歩く水中ウォーキングは、水の浮力で地上より膝への負担が軽減されるため、変形性膝関節症の方にとくにおすすめです。

エアロバイクは膝への負担が少ない上に、太ももの筋肉(大腿四頭筋・ハムストリングス)も鍛えられます。

自宅でできる筋力トレーニング

変形性膝関節症による軟骨のすり減りを抑制するためには、膝関節に過剰に負荷がかからないよう大腿四頭筋などの太ももの筋肉を鍛えることが重要です。

ここでは自宅で簡単にできる太ももの筋力トレーニングを紹介します。

太もも前面の筋肉のトレーニング1
  1. 背もたれのある椅子に深く腰かける
  2. 片足の足首を立て、ゆっくり水平まで持ち上げる
  3. 息を止めずに5~10秒キープする
  4. ゆっくりと元に戻す
太もも前面の筋肉のトレーニング2
  1. 脚を伸ばして床に座る
  2. 膝の下にタオルや枕を置き、押しつぶす
  3. 息を止めずに5~10秒キープする
  4. 力を抜く
太もも外側の筋肉のトレーニング
  1. 横向きに寝る
  2. 上の脚を伸ばしたまま、股を開くようにゆっくり20cmほど上げる
  3. 息を止めずに5秒ほどキープする
  4. ゆっくりと元に戻す

これらのトレーニングを、無理のないように様子を見ながら継続して行ってみてください。

変形性膝関節症の方がしてはいけない運動・動き

変形性膝関節症でも、有酸素運動や筋力トレーニングは行ったほうがよいですが、中には変形性膝関節症の方がしてはいけない運動もあります。

以下のような運動は膝へ過度な負担がかかり症状が悪化する可能性があるため、行わないようにしてください。

  • 間違ったフォームで行う運動
  • 過度な運動
  • 膝の痛みを我慢しながら行う運動
  • 急に動いたり止まったりする動作が多い運動(ジョギングやテニス、サッカーなど)

スクワットなどのトレーニングはよい運動になりますが、間違った方法で行うと膝に負担がかかり逆効果です。また、膝の痛みを感じながら運動を続けるのは悪化の原因となる上に、膝をかばうような動きになり他の部位に負担がかかるおそれもあります。

スポーツ以外の日常生活においては、以下のような動きをなるべく避けてください。

  • 正座
  • 床に座る
  • 和式トイレの利用
  • 長時間の立位・歩行

膝を深く曲げる動作は関節の大きな負担となります。座るときはなるべく椅子を使い、直接床に座らないようにするとよいでしょう。

変形性膝関節症における再生医療のメリットと費用

筋力トレーニングやヒアルロン酸注射などの保存療法でも改善がみられない場合、手術が検討されることが多いです。しかし、体への負担や入院・リハビリにかかる日数などがネックになり、痛みを抱えながら治療法を決めかねている方も多いでしょう。

そこで注目されるのが、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療です。保存療法や手術と比べた再生医療のメリットには、主に以下の4点が挙げられます。

  • 自己治癒能力を高める
  • 体にメスを入れない
  • 入院の必要がない
  • 拒絶反応が少ない

再生医療は自身の血液や脂肪から、組織の修復能力を持つ成分を抽出し患部に投与します。すなわち、人の体が本来持っている自己治癒能力を活かした治療法です。

また、手術と比較すると再生医療は採血や注射のみで済むため、数か月単位の入院やリハビリが必要ありません。PRP療法では、採血したその日にPRPを投与でき、通院にかかる時間を大幅に短縮できます

さらに、自身の血液や脂肪から抽出した成分を使用するため、拒絶反応が起こるリスクが少ない点もメリットです。

反対に、再生医療のデメリットは、大きく以下の2点が挙げられます。

  • 変形性膝関節症を根本的に治療するものではない
  • 健康保険が適用されない(全額自己負担)

以下は、変形性膝関節症で用いられる主な再生医療の費用の目安です。

費用の目安
PRP療法約10~30万円
APS療法約30~40万円
幹細胞治療約100~120万円

健康保険が適用されるためには国の認可が必要ですが、再生医療は新しい治療法であり、健康保険が使える再生医療はいまだ数種類に限られています。ただし、再生医療は医療費控除の対象となる場合が多く、確定申告により税金の一部が還付されることがあります

再生医療を変形性膝関節症の治療法の選択肢のひとつに

変形性膝関節症は膝関節の軟骨がすり減ることにより痛みが出たり、水が溜まったりする進行性の疾患です。初期は動き出したときに膝にこわばりや痛みを感じる程度ですが、進行するに従い歩行時に激しい痛みが出て、歩いたり座ったりが困難になります。

変形性膝関節症の治療法は保存療法や手術、再生医療があり、初期は運動療法や薬物療法などの保存療法が採用され、保存療法で改善がみられない場合、手術や再生医療が検討されます再生医療は入院の必要がなく、自身の血液や脂肪から抽出した成分を使うため拒絶反応が少ない治療法です。

長年膝の痛みに悩まされている方、入院生活で体力が落ちるのが不安で手術に踏み切れない方は、新しい治療法である再生医療を一度検討してみてはいかがでしょうか。

*1:整形外科・スポーツ診療科|変形性膝関節症|順天堂大学医学部附属順天堂医院

https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/seikei/disease/disease01.html

*2:変形性膝関節症に対する 自家脂肪由来幹細胞治療 – e-再生医療

https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/published_plan/download/01G2208009/5/1

*3:変形性膝関節症の自己管理|鳥取大学×米子市×根津整形外科医院

https://www.med.tottori-u.ac.jp/nursing/hiza-ikiiki/pdf/pamphlet.pdf

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